https://media.cyarea.jp/459/

底地の価値は「更地としての価額×底地割合」では求められない

投稿日

:

2021.11.05

LINE

不動産鑑定評価基準によると、例えば、借地権の取引慣行の成熟の程度の高い地域における借地権の価額は、次の4手法によって求めた価格を関連付けて決定されるものとされています。

① 借地権及び借地権を含む複合不動産の取引事例に基づく比準価格
② 土地残余法による収益価格
③ 当該借地権の設定契約に基づく賃料差額のうち取引の対象となっている部分を還元して得た価格
④ 当該地域の借地権割合により求めた価格

「底地の価格=更地としての価額×底地割合」に経済的合理性はない

旧法・普通借地権の価格に係る法曹界の取扱い

旧法・普通借地権の価格における裁判上の取扱いをみると、もっとも簡略的な前記④の手法に基づき、相続税路線価における借地権割合を更地価格に乗ずる考え方を大きな一つの基準としているようです。財産評価基本通達に基づく旧法・普通借地権の価額も、借地権の目的となっている宅地について権利の付着していない自用地としての価額に借地権割合を乗じて求めるものとされています。

財産評価基本通達に基づく路線価等(いわゆる相続税路線価)は、土地基本法第16条の趣旨より、その評価割合は公示価格水準の80%程度とされ、売買実例価額、公示価格、不動産鑑定士による鑑定評価額、精通者意見価格等をもとに国税局長が評定しており、借地権割合は、借地事情が似ている地域ごとに定められています。

底地の価格に係る法曹界の取扱い

一方で、不動産鑑定評価基準によると、底地の価額は、次の2手法によって求めた価格を関連付けて決定されるものとされています。

① 実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格
② (底地の取引事例によって求めた)比準価格

財産評価基本通達に基づく貸宅地(底地)の評価は「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合」とされています。

そのため、裁判上の取扱いにおいて、底地の価格を、「更地としての価額-更地としての価額×借地権割合」=「更地としての価額×(1-借地権割合)」=「更地としての価額×底地割合」とする考え方が通ってしまっているようですが、これは価値の捉え方としてロジックが破綻しています。

底地の価格(借地権設定者に帰属する経済的利益)とは、借地権の付着している場合における宅地について、実際支払賃料から諸経費等を控除した部分の賃貸借等の期間に対応する経済的利益及びその期間の満了等によって復帰する経済的利益の現在価値であるとされ、普通借地権のように更新の概念がある借地権に係る底地では、期間の満了等によって「復帰する経済的利益」の現在価値は直接的に考慮しない方が妥当と考えられます。

この「復帰する経済的利益」とはすなわち「使用収益を制約する権利の付着していない宅地」=「更地」としての復帰価格ですが、普通借地権が付着する場合など当復帰が見込み難い態様の底地の場合、底地の価格と、更地としての価格との関連性は希薄であると理解されます。

つまり、「底地の価格=更地としての価額×底地割合」のように「更地としての価格を前提に底地価格を導く手法」は、「更地」としての復帰価格を考慮するべきではない「底地」の価格を、「更地」としての価格から導くものであるため合理性が欠けていることになります。

底地の価値をケーススタディで理解する

そもそも、財産評価基本通達において貸宅地(底地)の評価が「自用地としての価額-自用地としての価額×借地権割合」とされているのは、画一的な課税のための基準としてであり、課税のために各宅地についての個別的要因を極力排除しようとしているものですから、性質として、個別性のある不動産の価値を算定する方法としての使用には耐えられないものです。

例として、近隣地域内に、更地価格1億円・相続税路線価価額8,000万円・底地割合3割の借地法(旧法)底地が2つあったとし、一方が借地権設定時に権利金につき5,000万円を受領して年間地代を50万円としているA。もう一方を借地権設定時に権利金を授受せず年間地代500万円としたBとします。そして、これら底地につき路線価割合でともに3,000万円にて同時に売り出した場合、Aは年間地代50万円でグロス利回りが1.7%。Bは年間地代500万円でグロス利回り16.7%となります。この場合、当然Bにしか購入者は現れません。Aと比較しBが得過ぎるためです。AもBも等しく路線価割合で3,000万円が妥当だなどとは成り得ません。
異なる例として、更地価格1億円・相続税路線価価額8,000万円・底地割合3割の定期借地権の底地Cがあって、1年経つと借地期間満了で借地人が建物を収去して借地を返してくれることになっているとします。Cは路線価割合で3,000万円でしょうか。そんなことは有り得ません。地代水準がよほど異常値でない限り更地価格の1億円に限りなく近い金額が妥当な価格のはずです(こういった異常に対応し、定期借地権については税法上も特記して存続期間を基とした評定をすることになりました)。

少なくとも、周辺地域において底地割合を基準として底地の価格が形成されているなどの市場実態でも認められない限り、「底地の価格=更地としての価額×底地割合」というような手法を適用することは許されないように思われます。

仮にこの場合で使用されうるような底地割合とは、当該地域の標準的な態様の底地の価格の更地価格に対する割合から当該地域の標準的な底地割合を把握し、対象地に係る借地契約の内容、契約締結の経緯及び経過した借地期間等の底地の個別性を考慮して適正に修正の上で判断される必要があると考えられます。

【追記:底地についての記事一覧】
底地の価値は「更地としての価額×底地割合」では求められない
低廉な地代が設定された借地契約における底地の価格
税務慣行上における地代の取扱い

ちゃりー! りあるえすてーと

ちゃりー! りあるえすてーと

◆収益不動産の経営分析クラウドサービス「CYARea!(ちゃりー)」公式アカウント https://cyarea.jp ◆上場事業会社の財務畑出身 不動産の評価分析やアセットマネジメントがコアな経歴の3児の父 ◆晩酌はザ グレンリベット 12年 ◆不動産経営におけるファンダメンタル分析を模索しています #不動産経営分析 ◆腑に落ちた記事がありましたらSNS等へシェア頂けると嬉しいです! https://twitter.com/CYARea_jp