https://media.cyarea.jp/461/

低廉な地代が設定された借地契約における底地の価格

投稿日

:

2021.11.29

LINE

一般財の価格と同じように、不動産の価格も、「価格の三面性」によって形成されます。すなわち、不動産の価格とは、以下三者の相関結合によって生ずる経済価値とされております。

① その不動産に対してわれわれが認める効用(収益性=収益方式)
② その不動産の相対的稀少性(費用性=原価方式)
③ その不動産に対する有効需要(市場性=比較(比準)方式)

不動産鑑定評価基準において、「底地の鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益等の現在価値の総和を求めることにより得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定する」とあるのは、底地については再調達原価(費用性)を求めることが出来ないことから、収益方式と比較(比準)方式にて算定することを基準としたもので「価格の三面性」の定理に沿っています。

「底地の価格=更地としての価額×底地割合」のような「更地としての価格を前提に底地価格を導く手法」は、前記「価格の三面性」のいずれにも該当せず合理的根拠に欠けるものと考えられます。

収益方式でも比準方式でも地代の額によって底地の価格は左右されます

地代の額はそう簡単に増額していけるものではない

借地契約における地代の額が近隣相場と比較して著しく低額になっているケースがありますが、これは歴代の底地の権利者が真摯に不動産経営へ向き合わず、然るべき権利行使をしてこなかったことの結果としてであることが一般的です。

低廉な地代になってしまっている底地を「更地としての価額×底地割合」のような「更地としての価格を前提に底地価格を導く手法」で取り引きするということは、権利行使を放置してきた歴代の底地の権利者の落ち度を次の所有者へ移転させる行為です。次の所有者においても、段階的な地代の増額しか認めない裁判所の運用、長年増額をしなかったことによる借地権者らの抵抗等により、地代をそう簡単に増額していけるものではないでしょう。

地代の額は底地の重要な価格形成要因です

地代の額は、底地の態様として重要な価格形成要因です。

収益方式は地代の額も含めた地主の不動産経営状況を反映させるのに優れた手法ですが、一方の比較(比準)方式においても、対象となる底地と取引事例とに係る個別的要因として地代の額が比較検討の上で比準され、地代水準は底地の価格に反映されます。 なお、比較(比準)方式において収集選択される取引事例とは「底地」の取引事例であり、類型の異なる「更地」の取引事例を収集して求められた結果に底地割合を乗ずるなどといった手法ではありません。

底地の価格と借地権の価格との関係

同一宅地上に存する借地権の価格と底地の価格とは、いわば表裏の関係にあり、原則として「更地としての価格=借地権の価格+底地の価格+併合による経済価値の増分(=分割による経済価値の毀損分)」という関係式が成立します。

底地とは、借地権が設定されている宅地の所有権ですから、借地権と底地とは、相互に密接に関連し、いわば表裏の関係にあるとされています。借地権と底地とが混同した場合には更地(又は建付地)となりますが、借地権の価格と底地の価格との合計額は、必ずしもその更地としての価格(又は建付地としての価格)とはなりません。借地権は借地条件等により当該宅地の最有効使用が必ずしも期待できない場合があり、また、借地権のうち賃借権については、流通性に制約があり、さらに直接に抵当権の目的となり得ないこと等から担保価値の減退も考えられます。底地についても、借地条件等に基づく最有効使用の制約による経済的不利益、借地権が付着していることによる市場性及び担保価値の減退が考えられます。借地権の価格及び底地の価格は、これらの不利益をも反映して個別的に形成されるもので、これらの不利益を考慮外とする「更地としての価格=借地権の価格+底地の価格」という考え方は、国税庁が課税を主として意識し定めた財産評価基本通達独自の解釈といえます。

よって、地代の額が近隣相場と比較し著しく低額で、底地の価格が低廉となるのであれば、借地権の価格が極めて高額になっているということになります。

極端な例として、更地価格1億円・相続税路線価価額8,000万円・借地権割合7割の借地法(旧法)借地権があったとし、年間地代が1万円程と極めて低額であった場合、借り得感が大きいため借地権の価格が高額となって、理論的には底地には価格が付かない可能性もあります。本来、借地権の価格の上限値は、更地としての価格(又は建付地としての価格)になりますが、この例のように、年間地代が年間税額(固定資産税・都市計画税)を大幅に下回るような極端な水準にあっては、更地としての価格(又は建付地としての価格)を借地権の価格が上回ってしまう可能性もありえます。こういったケースの借地権の価格が、借地権割合によって7,000万円などということは到底有り得ないものです。

なお、この場合において、併合で顕在化する経済価値の増分が高額になっているわけではないことにも留意が必要です。

底地を借地権者が買い取る場合には、底地を第三者に譲渡する場合に比べると当該宅地(又は建物及びその敷地)が同一所有者に完全に帰属することによる当該土地の最有効使用の可能性、市場性及び担保価値の回復等に即応する経済的利益があることが通常であるから、その経済価値の増分を考慮して得られる額を底地の価格に加算して買い取るような要請があるといわれます。

財産評価基本通達は不動産の価値を適正に捉えることを目的としていない

財産評価基本通達は、あくまで税金の徴収を公平に行うため画一的にした課税のための基準に過ぎず、その性格として、個別性のある不動産の価値を適正に捉えるためのものではありません。特に底地の価格形成について見られる誤解にはご留意頂ければと思っております。

【追記:底地についての記事一覧】
底地の価値は「更地としての価額×底地割合」では求められない
低廉な地代が設定された借地契約における底地の価格
税務慣行上における地代の取扱い

ちゃりー! りあるえすてーと

ちゃりー! りあるえすてーと

◆収益不動産の経営分析クラウドサービス「CYARea!(ちゃりー)」公式アカウント https://cyarea.jp ◆上場事業会社の財務畑出身 不動産の評価分析やアセットマネジメントがコアな経歴の3児の父 ◆晩酌はザ グレンリベット 12年 ◆不動産経営におけるファンダメンタル分析を模索しています #不動産経営分析 ◆腑に落ちた記事がありましたらSNS等へシェア頂けると嬉しいです! https://twitter.com/CYARea_jp