競売不動産評価の価格と時価(鑑定評価額)
不動産競売事件における評価とは、民事執行法により売却に付されることを前提とした「適正価格」の評価となっており、「適正価格」とは、不動産競売市場の特殊性を勘案した、競売の出発点となることを前提とした価格とされます。
よって、競売不動産の評価は、不動産の鑑定評価に関する法律に規定する鑑定評価に該当しないとされており(原則的に、国土交通省が定めた不動産鑑定評価基準に沿って評価することを要請されておらず、価格の三面性といった定理を差し置いて評価手法等を省略してしまっているケースも窺われる現状にあり)、結果として、競売不動産評価における「適正価格」と「市場価額(時価)」とに乖離が生じているものが多く見受けられるように感じられます。
Case Study)分譲マンションに係る共有物分割等請求事件における全面的価格賠償
① 競売評価における市場性修正及び競売市場修正前の価格:5,000万円 (持分10/10相当)
② 競売時の評価額:1,400万円(共有持分5/10相当)
※ 5,000万円(①)×市場性修正0.7×競売市場修正0.8×共有持分5/10×滞納管理費等相当額の減価1.00=1,400万円
③ 原告が取得した不動産鑑定評価における鑑定評価額:6,800万円 (持分10/10相当)
④ 調停委員が採用した和解案での価額:6,100万円(3,050万円:共有持分5/10相当)
前提
原告と被告とは、競売事件を経て、都内分譲マンション(以下「対象物件」という)について原告5/10、被告5/10の持分割合で共有するに至った。
被告は、対象物件を居宅として単独で使用している。
原告は、被告が本件建物を単独使用していることにより、対象物件の使用収益を妨げられており、被告は、対象物件を居宅として単独使用することにより、賃料相当額の原告持分(5/10)の割合による利得を得ている。
共有物の分割方法
共有物の分割方法は、(ⅰ)現物分割、(ⅱ)全面的価格賠償及び(ⅲ)競売のいずれかの方法によるべきと考えられるが、対象物件は、(ⅰ)現物分割に適さない物件である以上、金銭的な分割方法である(ⅱ)全面的価格賠償若しくは(ⅲ)競売の方法によらざるを得ない。(ⅱ)全面的価格賠償の方法を採用するためには、① 本件建物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、② その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存する場合でなければならず、かかる①及び②の要件を満たさない限り(ⅲ)競売による分割が図られる。
両者主張
被告は、競売不動産評価の結果を基準に対象物件の適正価値は5,000万円(持分10/10相当)であるとし、全面的価格賠償の方法に拠った2,500万円(共有持分5/10相当)での買取を主張。
原告は、原告が取得した不動産鑑定評価における鑑定評価額6,800万円が全面的価格賠償の基準とされるべきで、不動産鑑定評価と競売不動産評価とは評価の目的が異なり、実際に、本件における不動産鑑定評価において「正常価格」を求めるために採られた評価方法と、競売不動産評価において適正な価格を求めるために採られた評価方法とには大きく相違があって、そもそも適用した評価方式からして異なっている(今回の場合、競売不動産評価では取引事例比較法が適用されていない)のであるから、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格は6,800万円(持分10/10相当)と判断される旨を主張。
被告は、別途取得した不動産鑑定評価における鑑定評価額5,300万円(持分10/10相当)を証拠として提出し、競売不動産評価における5,000万円は、その算出過程が不動産鑑定評価とは評価手法の具体的な適用の細部において異なるものの、不動産鑑定士でもある評価人が行った中立的な評価であり、不動産鑑定評価の正常価格と同様に客観的な交換価値としての時価を指向するものであると主張。
調停の結果(調停委員:弁護士・不動産鑑定士)
調停委員より、対象物件の適正価値は(競売不動産評価に拠らず)原告が取得した不動産鑑定評価における鑑定評価額6,800万円寄りに判断されるとの心証が開示され、早期解決を目的に「原告」より譲歩提案された6,100万円を対象物件の全体持分10/10に対応する価値とみる和解案にて調停。
・原告は、被告に対し、対象物件の持分(5/10)を代金3,050万円で売却すること。
・被告は、原告に対し、賃料相当額の原告持分(5/10)の割合に相当する利得150万円を返還すること。
・被告は、原告に対し、所有権移転登記を受けるのと引換えに、前記金員合計3,200万円を支払うこと(登記手続費用は被告の負担とする)。
※ 当Case Studyは実際の調停経過に基づき各価格は標準化しています。