遺産分割における不動産の精算額
遺産分割の場面で、相続不動産を親族の一人が代表して単独取得し、他の共同相続人には価額を支払って精算しようと考えている。その精算額を、不動産会社による査定額か固定資産税評価額かに基づこうと検討中であるが、不動産鑑定評価書を取得しておいた方が良いのか?
相続人間で多少揉めそうなら鑑定評価書を取得しておきましょう
遺産分割において不動産で揉めることになるケース
基本的に、遺産分割の合意において、不動産会社による査定額に基づいても固定資産税評価額に基づいても法的な問題はなく、端的にいえば、当事者間で合意が形成されるなら何に基づいても良いはずです(贈与税や相続税の計算における各人の取得財産価額は、相続税評価額に拠りますので話が別です)。
但し、不動産会社による査定額や固定資産税評価額等で分割を行って一旦合意が形成されても、ホントにその価格が妥当だったのか、のちに他の共同相続人から問題提起がなされる場合があることに留意が必要です。
例えば、固定資産税評価額は、時価と大きく乖離しているため、実際には価額根拠としてお奨めできません。固定資産税評価額は、各市町村で算定される土地・家屋等の評価額で、あくまで税を徴収するためのものだからです。相続税評価額も、土地は相続税路線価(時価のおおむね80%)から、家屋は固定資産税評価額(新築時で時価の50%~60%)から計算されるので、時価と乖離しています。
一方で、不動産会社による(仲介)査定額は時価として取り扱いやすい価額と考えられます(業者仕入を前提とする査定額は別で、卸利益分だけ低廉です)。そして、無料で査定してもらえるのは大きなメリットでしょう。
しかし、不動産会社と共謀し低く(高く)見積りを取ったのではないかとあとで紛争になってしまうケースが多く見られます。
不動産会社による査定額のデメリットは、こういった紛争、裁判に至った際、有効な証憑として取り扱われていないことです。
鑑定評価書はその証拠能力が裁判所に認められています
不動産鑑定士による鑑定評価書は、その証拠能力を裁判所が認めていて、これに基づき調停や訴訟も進行されます。
つまり、共同相続人間で多少揉める可能性がある、或いは相続人が多数いる場合などは、不動産鑑定士による鑑定評価書を取得されておくことをお奨めします。
不動産会社による査定額とは客観的評価としての信頼性が異なることから、不動産鑑定評価書の取得には少なくない費用が掛かってしまいますが、弁護士が介在する紛争に至るようなことになればもっと多大な費用が嵩みます。
ホントにその価格が妥当だったのかと、のちに他の共同相続人から問題提起が図られたような場合でも、鑑定評価書は、それ自体に法的問題点がない限り、双方に多大な費用と負担の掛かるような紛争の抑止力を持ち、遺産分割の合意に安定性をもたらす役割を担えると考えられます。
但し、それほど時価が高くない不動産の場合には、鑑定評価費用自体も勿体ないように思われます。が、そういった不動産についてわざわざ裁判を起こすような方もそうそういらっしゃらないでしょう。