不動産に関する紛争と弁護士の選び方
不動産鑑定評価基準において、不動産は「通常、土地とその定着物をいう」とされ、例えば、設置承諾料等の類いは、逆説的に不動産鑑定士の独占業務として鑑定評価等の対象となる「不動産」には基本該当しないと考えられてきます。この点につき、裁判官も双方の代理人弁護士も整理しないまま裁判が進行されてしまっているケースを見たことがあり、テナント負担で用意する袖看板や壁面看板、移動看板などに係る設置承諾料等をあたかも不動産鑑定士の独占業務対象であるかのごとく一律に取り扱っていたほか、オーナー設置の看板使用料と、テナント負担で用意する看板の設置承諾料とを混同して争ってしまっていた(投下資本回収の観点、価格の原価性が無視されていた)ので、カオスな進行状況となっていました。どうしてこのようなボタンの掛け違いに誰も気付かずに事が運んでいったのでしょうか。
弁護士と質の高いコミュニケーションを取るためにその職業性を理解する
弁護士には職務基本規程というものが存在します
弁護士職務基本規程(平成16年11月10日・会規第70号)
(非弁護士との提携)
第十一条 弁護士は、弁護士法第七十二条から第七十四条までの規定に違反する者又はこれらの規定に違反すると疑うに足りる相当な理由のある者から依頼者の紹介を受け、これらの者を利用し、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。
(報酬分配の制限)
第十二条 弁護士は、その職務に関する報酬を弁護士又は弁護士法人でない者との間で分配してはならない。ただし、法令又は本会若しくは所属弁護士会の定める会則に別段の定めがある場合その他正当な理由がある場合は、この限りでない。
(依頼者紹介の対価)
第十三条 弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払ってはならない。
2 弁護士は、依頼者の紹介をしたことに対する謝礼その他の対価を受け取ってはならない。
日本の弁護士は、世界でも類を見ないほど高度の弁護士自治(完全自治)が認められていて、国家あるいは場合により依頼者からすらも、その独立が制度的に保証され、また、要求されているそうです。 この職務基本規程らにより、弁護士には、他の専門家の活用方法に制約が見られます。一般に、弁護士が、その報酬金より公認会計士、税理士、不動産鑑定士などの専門家への外注費を自ら負担(報酬分配)するということは見られず、他の専門家の見解を確認することが必要となった場合、基本的に実費としての外注費負担を依頼者へ求めるようです。つまり、「他の専門家の活用=追加のコスト負担を依頼者へ求めること」となってしまっているので、弁護士自身も(ボタンの掛け違いに誰も気付けないくらいにまで)他の専門家を活用しづらくなってしまっているのではないでしょうか(非弁提携の合法化推進者ではありませんが、この職務基本規程らが弁護士法の趣旨に適っているかの長短については議論の余地があるように感じられます)。
「不動産」は適用される法律と結論が一定幅に収まり易い分野と考えられます
「不動産」は、「離婚」「相続」「交通事故」などと並んで、弁護士の専門分野や得意分野へ掲げられていることが多いキーワードです(弁護士にとって生活の糧ともいえます)。しかし、弁護士の業務領域について、医師における学会認定専門医制度のような客観評価の仕組みはないため、この専門・得意分野というのは、弁護士(所属事務所)による自己申告に過ぎない面があります。こうなりますと、弁護士選びがなかなか難しいように思われてきますが、一方で、「不動産」は前に挙げたキーワードと共通に一般生活へ密着性があり、適用される法律とその結論が一定幅に収まり易い分野だと考えられます。つまり、「不動産」は、専門分野の弁護士でないと妥当に処理が出来ないような特殊性がある案件にはそうそう当たらず、業務の成否≒CS(Customer Satisfaction:顧客満足)は、依頼者と弁護士との情報共有の程度や弁護士自身の調整能力に左右される面の方が大きいように感じられます。その際、依頼者サイドとしても、弁護士に他の専門家を活用しづらい事情があることなど、その職業性へ多少の理解を持っておけると、質の高いコミュニケーションを弁護士と図っていけるのではないでしょうか。